ワルシャワの悲劇/神父暗殺(米・仏/1988)

◇本作はビデオスルー作品で、円盤化もされていないようだ。この作品を監督したアグニェシュカ・ホラント監督の「オリヴィエ・オリヴィエ」を話題に出したのがきっかけで、運良く知人に見せてもらえたのだが、そういった伝手抜きだと手軽には見られない状態かもしれない。

 

◇この作品は1984年にポーランドで起こったイェジ・ポピエウシュコ神父暗殺事件を描いている。ホラント監督は元々ポーランド出身で、映画冒頭に発生する1981年末の戒厳令を機に西側へと移り住んだようだ。事件からわずか4年後に公開されたとあって、観客に事件経緯やポーランドの国情が共有されていたのか、世界史的な説明は乏しい。鑑賞前に「連帯」に関する最低限の知識くらいは仕入れておいた方がいいだろう。

 

◇この作品では殺す側の秘密警察職員と殺される側の神父の両方に焦点を当てている。だがどちらの描き方も中途半端で、彼らが何に殉じたのかが胸に迫ってこない。思考を辿れない言動も多い。たとえば神父が「敵を憎むのはやめた」と宣言するシーンがあるのだが、何がきっかけでそう思うに至ったのかが読み取れなかった。これほど重い決断を下そうとしているような素振りも見せていない。唐突に飛び出してくる「敵を憎むのはやめた」という発言は、しかるべき重みを伴って響いてこなかった。脇役も含め、ともかくこの作品にはこの手の飛躍が多い。人間ドラマとしては雑、結末が明白なのでサスペンスとしても楽しめない。神父の民主化運動における貢献ももっと描写の余地があったはずで、同時代性ゆえの情報不足なのかもしれないが、歴史映画としての意義も乏しい。ホラント監督らしい目を引かれるカットもあるし、全体として話を無難にまとめてはいるものの、何をしたいのかがよくわからない作品だった。

 

◇神父のことを調べていたら、カトリック教会の記事を見つけた。神父の活動ぶりが記されていたので、少し引用させてもらう。

1981 12 13 日、共産主義政権は戒厳令を布いて、多くの「連帯」の活動家を逮捕し、その他に対しても、嫌がらせと報復の政策を実行しました。ストライキを行った多くの人が職を失い、家族を養えなくなりました。また、路上で暴行を受け、置き去りにされ死に至る人々もありました。 ポピエウシュコ 神父は、戒厳令によって苦しめられている家族を支援する、福祉プログラムの中心人物となりました。

 

神父は、「連帯」の活動家たちの裁判に几帳面に出席し、囚われている人たちが、自分たちは忘れられていないと分かるようにと、家族と一緒に法廷内で目立つように座りました。すべての囚人とその家族を祝福する目的で、国のためのミサを毎月挙げるというアイデアを思いついたのは、法廷でのことでした。それは、政治的な宣伝ではありませんでした。 ポピエウシュコ 神父は自分の修道会に、宣伝用の横幕を掲げたり、スローガンを叫んだりしないで欲しいとはっきり頼みました。彼の、母国のためのミサは、ワルシャワだけでなく、ポーランド中に知られるようになり、しばしば 15,000 人から 20,000 人の人々が集まりました。 ポピエウシュコ 神父は、変革は平和裡にもたらされなければならないし、また平和のしるしは、国のためのミサのたびに、最も強く心に訴える瞬間の一つになると力説しました。 *1

こういう描写にもっと力を入れた方が、ポーランドが失ったものの大きさを感じられたと思うんだけどなあ。悪い作品ではないけれども、ビデオスルーもやむなしか。

 

ワルシャワの悲劇/神父暗殺 / 米・仏 /1988

監督:アグニェシュカ・ホラント

キャスト:クリストファー・ランバートエド・ハリス