「DNA鑑定は万能か その可能性と限界に迫る」赤根敦著 / 化学同人

◇DNA鑑定に対して漠然とした信頼を寄せている人は多いのではないだろうか。私自身にもDNA鑑定は既に完成された技術だという思い込みがあった。本書はこのような無邪気な期待に対する、DNA鑑定黎明期から活躍する専門家からの回答である。執筆のモチベーションからも、文章の端々からも、非専門家が抱く技術への妄信に、著者が歯がゆさと危うさを感じていることが読み取れる。

◇メインテーマは副題の通り「DNA鑑定の可能性と限界」だが、そのものを論じているのは全6章のうちの最後の1章に過ぎず、大部分はDNA鑑定の解説に費やされている。DNA鑑定と一括りにされている各種検査方法の紹介を軸にしつつ、高校生物レベルからの生命科学、DNA鑑定導入の歴史と意義、実際の活用事例、DNA鑑定に携わるためのキャリアプランにまで及ぶ解説は隙がなく、同時に平易明快だ。生物学の知識が乏しい(具体的にはDNAの説明ができないレベル)の読者にとっては情報量が多すぎて読みこなすのに骨が折れるだろうが、本書の理解に必要な情報はほとんど収められている。この一冊で完結できると思えば、苦労して読む甲斐もあるのではないだろうか。逆に分子生物学が得意な人であればサッと飛ばし読みできるボリュームである。

◇最終章に到達する頃には、読者も「DNA鑑定の可能性と限界」について何らかの意見や視点を持てるようになっているようになっている(はずである)。著者の見解も提示されているが、主張を通したいという欲求は希薄で、むしろ本書を通して著者の見解を正しく理解する知識が備わったかを確認されているように感じた。読者の思考を手助けするバランス感覚に長けた良書だ。