「あなたにもキャッチできる!児童虐待のSOS」(徳永雅子/新企画出版社)

保健師*1の著者による児童虐待の概説書。医療、心理、行政、司法と分野横断的な項目立てになっており、著者が本文中で何度も指摘している保健師の「各領域をつなぐ」機能を見るような思いがした。今となっては特に目新しく感じる記述もないものの、約20年前にこれほど網羅的かつ読みやすい本は貴重だったのではないかと想像する。

 

◇今読んでも勉強になるのは多彩なケース報告。多くの類書では事例紹介において時系列のごく一部だけが抜き出されるが、本書では対応の開始から終結(もしくは現状)までが報告されており、実務の実際がイメージしやすくなっていた。また、協力関係を築くのに消極的な他業種(特に児相)への不満を所々でやんわりと表明しているのも、現場で働く人ならではだった。

 

◇疑問もないわけではない。とりわけ引っ掛かりを覚えたのは「アルコール依存症措置入院は悪影響」と断じていたことだ。本人の意思がなければ治療効果はないというのが著者の主張なのだが、そもそも自傷他害の恐れを取り除くことを目的とする措置入院の功罪を治療効果で論じるのは的外れではないか。少なくともこのような断定をする以上は、著者の主観を超えた根拠を提示すべきだったと思う。また育児を母親が担う前提の書きぶりも、20年前の本なので仕方がないとはいえ、今読むと引っ掛かりを覚えてしまう。ともあれ、コンパクトながらも児童虐待をめぐるトピックがぎゅっと凝縮された良書なので、入門書としての価値を現在も失っていない一冊ではないだろうか。多くの児童虐待の本が児童に集中するなか、母親対応にウェイトが置かれているのも特徴的なので、関心が合致する方は探してみてください。

あなたにもキャッチできる!児童虐待のSOS (新企画サイエンスシリーズ) 新書-Amazon

*1:ちなみに本文中では「保健婦」の表記が使われている。男性との名称統一のため、本書執筆から3年後の2002年に「保健婦」から「保健師」へ名称が変更になった。