読書記録

最近読んだ本をまとめて記録。

 

◇「声の網」星新一/講談社文庫

 星新一は時に預言者と言われる。40年以上前に書かれた本作にも、今となっては現実そのもののアイディアが次々に飛び出してきて、先見性に驚かされるばかりだ。音楽配信サイト、遠隔医療、クラウドサービス、NSAのPRISM。Facebookが顰蹙を買った心理実験じみた描写すら登場するものだから、苦笑してしまう。

 面白いもので、星の未来予想図が次々に的中しているという事実は、彼の想像力があくまで地に足着いたものだったことの証左だ。彼の時代にはなかったテクノロジーやサービスの創出は、人間の欲望や必要を土台としている。新しいものを受け入れて変わった、あるいは変わらない社会の光景には、人間の行動原理への深い洞察が反映されている。つまり星が描いたのは「人間」だったということなのだろう。だからこそ時代の流れと共にアイディアの斬新さが失われても、彼の作品は面白い。

 電話からの不思議な「声」をモチーフにした本作も、「声」に翻弄される人々の姿から浮き彫りになる「私的領域を侵されることに対する人間の根源的な恐怖心」に焦点がある。近未来的で無機質な印象の舞台と、そこで展開される原始的な人間性のギャップは、いかにも彼らしい。星作品の魅力が堪能できる一冊だと思う。

 

◇「わかりやすい免疫学」市川厚、田中智之編集/廣川書店

 免疫の講義で得た各論的な知識を全体像に落とし込むために読んだ本。免疫反応で起こるイベントの時系列的な概説から始まるのが気に入って手に取った。免疫はプレイヤーが多いうえに、それらが互いに影響を及ぼし合うため、煩雑に感じられる。この本では最初に各プレイヤーの相関関係や反応のタイムテーブルを頭に入れられるので、詳細に入ってもストーリーを見失わずにいられた。また各イベントが体内のどこで起こっているかにも意識して書かれており、ただ丸暗記していた部分がロジックで理解できるようになった。

 唯一の難点は、直感的に理解しづらい表や図が多かったこと。もっとも文章による説明が十分に噛み砕かれているので、大きな問題はないと思う。

 まえがきで強調されている「初学者が最初から順番に読み進められる」という目標を達成した、明瞭な書き口の本だった。ただし、正真正銘の「免疫とのファーストコンタクト」にはボリュームがありすぎるので、新書等で勉強した後の二冊目あたりにぴったりかもしれない。