「命懸けのダイエット vol.3 摂食障害」(BBC制作/1998年)

◇概要

 BBC制作「命懸けのダイエット」三部作の最終回。従来個人の性格や社会の文化という観点で語られてきた摂食障害に対し、遺伝学的・生物学的アプローチが始まっているというレポートで、仮説的ながら想定されるメカニズムの説明もされている。48分間。

 

◇感想

 一般向けに制作されたドキュメンタリーだが、従来の疾患イメージの修正というかなり踏み込んだ内容だった。恐らくカレン・カーペンターの死やダイアナ元妃の告白*1によって、イギリス人の間で摂食障害が広い認知を得ていたからこそ成立した番組なのだろう。制作が20年前なので、番組当時の仮説については改めて調べる必要があるが、豊富な患者さんの証言やミネソタ飢餓実験の説明など、ビデオだけで得られるものも多かった。

 

ミネソタ飢餓実験

 ミネソタ飢餓実験は初めて知ったので、番組の説明をまとめておく。

 1945年、アメリカのミネソタ大学で良心的兵役拒否者の30代男性たちを6か月間飢餓状態に置く実験が行われた。目的は飢餓状態が与える影響の調査と飢餓後に最適な食事復帰法の模索。実験が行われた背景には、第二次世界大戦末期のヨーロッパで1000万人が飢餓状態に陥っていたことに対するアメリカの懸念があった。

 実験期間で被検者は体組織40%減、体重4分の1減。しかし食事再開後は体重を回復した。また食べ物に対する強い執着が見られ、実験終了後まで継続する人もいた。複数の人が食事に関連する職業に転職している。この実験の結果が、拒食症患者の食べ物への執着は飢餓状態による影響という誤解に繋がった。

 

摂食障害を文化的文脈だけで理解できるか

H.ホーク博士の調査:痩身をもてはやす欧米文化が摂食障害の原因ではないかと疑い、太っていることが美しいとされるキュラソー島に拒食症患者がいるか調査。結果8名の患者が見つかり、欧米と同程度の割合で存在することがわかった。該当論文も発見。

www.ncbi.nlm.nih.govWW.ケイ博士の調査:摂食障害患者の10%は摂食障害の家族を持つという調査結果。摂食障害が文化的な要因だけだとしたら、症状が長引きすぎるという見解。

 

◇患者の証言

・20代女性(入院6回)

「この状態がごく普通になってしまっている。誰でもそうだと思うけど、いつもと同じ状態をはみ出るのって怖いのよね」

「過食期は次の食事を作りながら、手のかからない食べ物を食べている。流し込むように食べるからドライフードは駄目」

・10代女性(入院3回)

「困難なことを自分でコントロールしている感覚。ほかに友達はいらない。拒食症がベストフレンドだもの」

「一緒にできないことがいっぱいあったから、家族や友達から孤立してしまった。後悔しているけれども、拒食症と別離する勇気がまだない」

 

◇自分用メモ

 ・患者は強迫性人格障害の親を持っている場合が多い。患者本人にも同様の傾向が見られ、遺伝的要因が考えられる。特に飢餓状態によりこの傾向が強められる。食べ物以外に、清潔などにこだわる例も。ビデオを通しで観ないと気がすまない患者もいた。

作業療法士がついて買い物の仕方の勉強もする。

・拒食症患者の30%は入院前の体重に戻る。イギリスでは年間200人が摂食障害により死亡。最も死亡率の高い精神疾患。精神療法がほぼ唯一の治療だが、一部の患者にしか効果がない。

セロトニンはうつや性欲減退など摂食障害と重なる症状を引き起こすため、摂食障害への関与も疑われている。摂食障害患者ではセロトニン受容体5HT2A受容体変異体が健常者に比べ2倍。セロトニンによって不安が引き起こされ、不安からセロトニンが増加する悪循環か。セロトニンの原料はトリプトファンなので、食事制限によるトリプトファン不足が不安軽減に繋がっている可能性。実際に、摂食障害患者はしばしば「食事制限をしていると心が休まる」と語る。

摂食障害をfight/flight状態の継続と捉える考え方も。ストレスにより、コルチゾールやアドレナリンが分泌され、心拍数が増加して食欲抑制につながる。コルチゾールにより海馬が縮小すると、コルチゾールの調節が一層難しくなる。

視床下部ホルモンのAVPはストレス反応を抑制し、食欲を回復する。摂食障害では働いていない可能性。番組当時、AVP投与の研究が行われている。

*1:ほんの一瞬だが、二人の映像は番組中にも登場する。