東京物語(日本/1953)

◇小津作品を見たのはこれが初めて。低い位置に固定されたカメラや話し手を真正面から捉える演出になかなか慣れず、最初はカメラワークにばかり意識が向いてしまったが、段々と物語に引き込まれていった。

 

◇子供たちと久方ぶりに再会するため、遠路はるばる東京を目指す老夫婦。しかし親子水入らずの高揚感や期待は、日々の生活に忙殺される子供たちに接するうちに、するすると萎んでいく。両親を気遣いつつも、日常を乱されることに疎ましさを覚える子供たち。孫二人はほとんど会う機会のない祖父母に懐く様子を見せない。これが半世紀以上前の映画だろうか、と驚いてしまうほど、今日的な人間模様だ。物理的距離、生活様式の差、世代やライフステージの違いが人の間に溝を作るのは、恐らく普遍的なことなのだろう。昨今「古き良き家族」への回帰の声が喧しいが、そんなものが存在した時代があったのだろうかと改めてうさん臭く感じる。

 

◇そんな現実的な物語の中にあって、血縁関係がないにも関わらず、献身的に老親に尽くす次男の嫁(原節子)の存在はやや浮いていた。それでもその「善きありよう」を嫌味に感じずにストーリーを追うことができたのは、彼女も胸の内に何かを抱えた人間であることが序盤から示唆されていたからだろう。彼女がまとう影の正体は、物語の最終盤になって明らかになる。視聴者と老親は、彼女もまた「自分の生活を生きる」人間なのだということを知る。老親は彼女を責めない。それどころか肯定し、心から労ってやる。誰もが自分の人生を生きていかなければならないことを承知しているからだ。老親にも老親の暮らしがある。老親は最後にある悲劇に見舞われるが、その痛みも徐々に棘を失くし、凪いで行くのだろう。そんな予感を抱かせるラストシーンの俳優の演技は、さりげないのに目を離せない。小津の描く人間の機微は苦い。しかし人生に対する眼差しは温かい。どの登場人物もフェアに描かれているので、年を追うごとに違った共感が生まれる作品だと思う。

 

◇ところでこの作品を見て、「田舎の日曜日」(仏/1984)を思い出した。「東京物語」とは逆に、子供たちが田舎の老親を訪ねる物語だ。印象派の絵画と見まごう光溢れる美しい画面と裏腹に、何か底冷えする印象が残った映画だったが、「東京物語」と対比しながらもう一度鑑賞してみたら面白いかもしれない。

 

東京物語/日本/1953

監督:小津安二郎

キャスト:笠智衆原節子東山千栄子山村聡杉村春子